イスラエル化する日本
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ともだち暦元年
先日、ふと気がつくと近所に「幸福実現党」のポスターが貼られていた。その日は友人と池袋で待ち合わせをしていたのだが、駅に着くと、幸福実現党が街頭演説をしていた。その後、銀座に出ると、なんと表通りに幸福実現党の事務所ができていた。これはどう考えても、不吉な前兆神仏の啓示に違いない・・・というわけで、以下取り上げてみる。ちなみに、知らない人のために書いておくと、幸福実現党は「幸福の科学」の政党バージョンである。
【7/1 追記】ここは、正しくは(法的には)「政党」ではなく、「政治団体」になるそうです。
http://d.hatena.ne.jp/m_debugger/20090624#c1246199930
幸福実現党については、6月21日(日)付の読売新聞と産経新聞に、「新・日本国憲法 大川隆法試案」という全面広告が掲載されたので、知っている人も多いような、たいして多くないような気もするが、一言でいえば「主権が国民に存することを宣言しておらず、マスコミを制限し、日本国民全員を神仏に従うようにしている超危険な憲法」である。どうやら「『20世紀少年』はもう既に現実になっている」らしい。
幸福の科学のシナリオ通りに行くと、
破壊屋:「幸福実現党の新・日本国憲法」
http://hakaiya.web.infoseek.co.jp/html/2009/20090621_1.html
ところで、大川隆法によると、新型インフルエンザがメキシコで発生したのは、
- メキシコ経済への不安感
- メキシコ政府への不信感
- アメリカへの憎悪
「といった悪想念がメキシコ人たちの間に広がっているから」であるらしい。
何故インフルエンザは冬に流行するのか?というと
- 秋は虫がたくさん死ぬ季節だ
- だけど死んだ虫たちは成仏できない
- 虫の不成仏霊がインフルエンザウイルスに帰依する
だそうだ。虫の霊ってのがすげーな、一寸の虫にも五分の魂だ。ちなみに花粉症は森林開発で伐採された植物の霊が原因だと主張している。
破壊屋:「感染列島」
http://hakaiya.web.infoseek.co.jp/html/2009/20090531_1.html
・・・というように、幸福の科学は強靭な反知性主義に支えられているという点で、米国のキリスト教原理主義と通じるものがある。ただし、米国でキリスト教原理主義が権力を得ているようには、日本で幸福の科学が勢力を広げる心配はないだろう。理由はいくつか考えられるが、最大の要因は、日本人の多くが天皇制という選民思想に安住しており、マジョリティにとってもバカバカしさが明らかな、よりマイナーなカルトなど今さらお呼びでないからである。これはこれで、というか、余計に心配であるわけだが。
イスラエル化する日本
ところで、このエントリーの主旨は、幸福の科学/幸福実現党のカルトぶりをさらけ出すことではない。そんなことは、幸福の科学/幸福実現党に任せておけばよいのである。私が気になっているのは、こうした宗教的極右政党の登場に象徴される日本の政治情勢が、イスラエルの状況に非常に似てきている、ということだ。
今、手元に幸福実現党のチラシがある。わざわざスタッフ(というか信者)に声をかけてもらってきたものだが、チラシの表上面には「北朝鮮のミサイルから守る政党?守らない政党」というキャッチコピーがある。幸福の科学は、自民党や民主党の右派が縛られている「現実主義」から解脱しているだけあって、対・憲法および北朝鮮政策でためらいもなく極右路線を掲げ、しかもそれを売りにできるというわけだ。
北朝鮮ミサイル問題
4月に北朝鮮がミサイル発射実験を行った時に、大川隆法は「レンジャー部隊が北朝鮮で軍事演習して、金正日を生け捕りにする」という保守の政治家でも言わないような暴走発言をかました。北朝鮮が核実験まで行った今の状況だと、エル・カンターレ(大川隆法)が支持されて再び日本で幸福の科学ブームが来るかもしれない。どうでもいいが、この発言は後半の「生け捕り」よりも前半の「北朝鮮で軍事演習」が意味不明だ。
破壊屋:「俺たち幸福実現党!」
http://hakaiya.web.infoseek.co.jp/html/2009/20090527_1.html
ちなみに、チラシの表下面には、次のように書かれている。
不毛な自民・民主の二大政党制を終わらせ、第一党を目指します。
幸福実現党は「勇気ある繁栄」を実現します。
1.憲法9条を改正し、国の防衛権を定めます
- 断固として、国民の生命・安全・財産を守ります。
2.「毅然たる国家」として独自の防衛体制を築きます
- 日本の主要都市にミサイルを向けている中国や、核ミサイル開発を進める北朝鮮に対し、原子力潜水艦や人工衛星から防衛できる核抑止力を築きます。
- 北朝鮮が核ミサイルを撃ち込む姿勢を明確にした場合、自衛隊がミサイル基地を攻撃します。
3.日米同盟を堅持しつつ、国益重視の外交を行います
- インドとの同盟関係、ロシアとの協商関係を目指すとともに、オーストラリアとの関係強化などによって味方を増やし、日本を守ります。
幸福実現党は、宗教法人「幸福の科学」を母体にした政党です。開かれた国民政党として、国民一人ひとりの声に耳を傾け、必ず国政に反映していきます。
要するに、
を主張しているわけである。幸福実現党の憲法廃案について、今週号(6/24号)の『マガジン9条』で鈴木邦男が「景山原案の方が、より宗教的であり、より「9条的」なのだ。これは是非、景山原案に近づけてもらいたいと思う」と書いていたが、こんな政策と比べたら、憲法9条を書き換える自民党の改憲案ですら「より「9条的」」と言える。
幸福の科学は、どうやら千葉県知事選の勝利で自信をつけたようだが、創価学会ほど大衆的な基盤があるわけではなく、選挙戦略にそれほど通じているとも思われない。幸福実現党が、衆院選後に行われるであろう政界再編のキャスティングボートを握ることはさすがにないだろうが、幸福の科学の政界デビューは、「在日特権を許さない市民の会」の街頭デビューと同様、日本社会のいっそうの劣化――イスラエル化と言ってよいかもしれない――を象徴していると思う。
選挙戦
しかし幸福の科学の選挙活動には驚いた。300の選挙区全てに候補者を立てるというのだ。これぞ真のスリーハンドレッド!ジィス・イズ・エルカンターレ!。日本中に候補者が出現すれば、当選者が出なくても大きな宣伝となるだろう。さすがに300の選挙区全てに信者がいるはずもなく、現在候補者を募集している。
ところで、近所に貼られていたポスターは、たった3日で上・右・左の3面がはがれ、白々とした無残な姿をさらしている。接着面を見ると、普通の両面テープで止めてあった・・・なんだか思いっきりDIYだよな。
また話がそれてしまった。イスラエルの総選挙についての分析は、以下のサイトに詳しいので、ぜひご覧いただきたい。
パレスチナ情報センター:「イスラエル総選挙を終えて--消えた政治的争点」
http://palestine-heiwa.org/note2/200604010152.htm
「パレスチナ和平をどうするかという政治的争点は皆無だった」ということが顕著です。何よりも、「一方的撤退」と「分離壁」による「国境画定」について、完全に一致を見ていたカディマと労働党のあいだに論戦が存在せず、合併でもしたらどう?ってくらいなのですから。
次の衆院選では、対北朝鮮政策が一つの争点になるだろうが、北朝鮮への制裁強化については衆参両院とも全会一致で決議を採択しているので、各党の相違は、望ましい制裁のレベルがどの程度であるか、といったことでしかない。
そもそもシャロン健在時のリクード政権下で押し進められてきた一方的撤退は、「パレスチナは交渉相手にならない」「和平合意は必要ない」「好きなところに国境線を引いていい」「西岸地区のほしい土地は一方的にもらっていく」というとんでもない政策です。オスロ合意やロードマップ(いずれもイスラエル側に偏ったものだとはいえ、最低限の国際的合意)もすべて葬り去るもので、実のところイスラエル側がそうした合意を遵守してきたことなどないのですが、今は公然と過去の合意を破棄しているのです。それでいてハマスに対して、「過去の合意の遵守」を求めるなんていうのはとんでもない矛盾なのですが、、、それはさておき。
このどうしようもない「一方的撤退」政策に原則同意してしまっているもう一つの政党が、メレツ。マイノリティの人権尊重を訴える「左派」を自任しており、かつてオスロ合意の裏の立役者であった(当時労働党にいた)ヨッシ・ベイリンが党首を務めています。そのメレツもまた、カディマ=労働党と立場を同じくしているのです。これが、現在新聞やニュースで「世俗的な左派・和平派による連立の基軸」と呼ばれているものの実態です。もちろんここで言う「和平」と言うのは、「合意なき和平」のことですが、ともあれ主戦論や大イスラエル主義ではないことから、「左派・和平派」と言われてしまう。
日本でも、ここ数年の急激な右傾化にともなって、解釈改憲派が(核武装論や先制攻撃論ではないことから?)「リベラル・左派」と呼ばれるような現象が起こっている。イスラエルにとってのオスロ合意は、イスラエルに一方的に有利であるにもかかわらず、イスラエルがそれを一方的に破棄してきたという点で、日本にとっての平壌宣言と似ているかもしれない。
シャロンが、和平合意によるパレスチナ独立という二国家案ではなく、かと言って大イスラエル主義的全面占領でもなく、そのあいだの独自の中間形態で「一方的撤退」という道を敷いたのは妙案であり、そこに人びとが現実主義的になだれ込む構図が理解できます。また、労働党もメレツもそうした人びとと同じように、非主体的に撤退案へ便乗するしかなかったように見えます。
シャロンの「一方的撤退」にあたる「妙案」の日本版が、安部政権が逆説的に推進した「戦後レジームの擁護」だろう。アジアから見れば「一方的」極まりない、どうしようもない政策である点も、そっくりである。「和平=治安問題はもう中心的争点ではないから(すでにシャロン路線で既定)、国内の社会政策を中心課題にしよう」という社会の内向化も、日本にはびこる排外主義としての格差社会論そのままだ。幸福実現党の行く末はともかく、日本のイスラエル化については、冷静な分析と対策が必要であると思う。