「唯一の被爆国」は北朝鮮の核実験を非難できるか(4)
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すっかり久しぶりになってしまったが、前回の続きを再開する。このエントリーについては、「唯一の被爆国」という言説の出所や流通範囲をきちんと調べてから続きを書こうと思っていたのだけど、怠惰のため、時間だけが無駄に経ってしまったので、とりあえず手持ちの材料で始めることにする。
さて、ざっと調べてみた範囲では、日本が「唯一の被爆国」であるという言説は、かつて散々叩かれて、一時はマスコミ(の一部)でも自粛されていたらしいのだが、今ではすっかり与野党の共通認識として定着しており、マスコミの間でも「常識」化しているようである。そのことは、北朝鮮の二度の核実験、さらにオバマのプラハ演説を受けて、衆参両院で全会一致で可決された一連の決議と、それらをめぐる日本国内での報道などからも明らかだろう。
これらはいずれも、「唯一の被爆国」である「わが国」*1という特権的な立ち位置を取りながら、北朝鮮の核実験を非難し、核廃絶に向けた日本の取り組みを自画自賛している。ここには、日本が「反共と「国体護持」の為にアメリカと安保条約やいわゆる沖縄密約を結んで核の傘に入り、東北アジアの緊張激化と核戦争の脅威を与えてきた」こと、すなわち「朝鮮の人々にとっては、日本こそがアメリカによる「核の脅威」を支えてきた張本人」であるという認識はまるでないように見える。
- 2006.10.10 北朝鮮の核実験に抗議し、すべての核兵器及び核計画の放棄を求める決議(衆議院)
- 2006.10.11 北朝鮮の核実験に抗議し、すべての核兵器及び核計画の放棄を求める決議(参議院)
- 2009.05.26 北朝鮮核実験実施に対する抗議決議(衆議院)
- 2009.05.27 北朝鮮核実験実施に対する抗議決議(参議院)
- 2009.06.16 核兵器廃絶に向けた取り組みの強化を求める決議(衆議院)
- 2009.06.17 核兵器廃絶に向けた取り組みの強化を求める決議(参議院)
では、話を本題に戻そう。
日本は「唯一の被爆国」ではない
まず、1について述べる。米国を始めとする核保有国は、核実験を含む核開発の過程で、自国内あるいはその海外領土*2に暮らす多くの人々を、歴史的に被爆させてきた。
米国では、広島と長崎への原爆投下に先立って、ウラン鉱山での採掘や、核兵器の製造・開発・実験に動員された労働者(その多くは先住民)が真っ先に核被害を受けたのであり、マンハッタン計画では、重病患者や受刑者を含むマイノリティなどが人体実験に利用され、放射性物質を直接体内に注入された。米国は、広島・長崎の後にも、信託統治下*3にあるマーシャル諸島で核実験を繰り返し、1946年から1958年までに合計67発もの核実験を行った。とりわけ1954年の水爆実験(第五福竜丸も被爆した)では、広島と長崎に投下した原爆を合わせた1000倍以上の破壊力を持つ「ブラボー」によって、いくつもの島が消滅し、少なくとも2万人以上が被爆した。
1954年の水爆実験で、ロンゲラップが破壊され、私たちは避難しました。それから3年後、アメリカがもうロンゲラップは安全だといったので戻りました。でも、奇形の子供が生まれたり、これまでになかったような病気にかかり、島民は死んでいきました。私たちは怖くなって、ロンゲラップを逃げ出し、クワジェリン環礁のメジャットに移り住んでいます。ここは不毛の島です。この島に来たときは、何もなく、自分たちでやしの木を植えました。食べるものが十分に育ちません。魚も取れません。だから、アメリカが3ヶ月に1度送ってくる缶詰や小麦粉に頼っています。
アメリカからロンゲラップに支給される補償金の一部は、島民に分配されますが、一人、3ヶ月に80ドルにしかなりません。これでは、にわとり1羽買うだけでおしまいで、毎日、十分に食べられない生活を強いられています。
日本原水協:「マーシャル諸島」
http://www.antiatom.org/GSKY/jp/Hbksh/index-hbksh.htm#Anchor-35882
米国に続いて核保有国となったロシアはカザフ共和国(当時)やアルハンゲリスク州で、英国はオーストラリアやクリスマス島で、フランスはアルジェリア*4やポリネシアで、中国は新疆ウイグル自治区で、それぞれ核実験を重ねてきた。
・・・というようなことは、多少調べればすぐにわかることであって、日本が「唯一の被爆国」であるという言説は、マーシャル諸島やオーストラリア、アルジェリアを「国」として認めないという、凄まじい植民地主義にもとづいているのでなければ、核実験による被害を「被爆」として認めない、あるいは、日本国外の被爆者の実態については無知であり続けようとする、寒気がするような傲慢にもとづくものだと思う。
けれども、かりに、以上のことを知らずにいたとしても、米軍が湾岸戦争およびイラク戦争で劣化ウラン弾を使用しており、深刻な被害をもたらしていることは、日本でも広く知られているはずである(正確に言うと、日本政府は自衛隊のイラク派遣から2ヵ月後には、劣化ウラン弾の安全性を訴えるキャンペーンを始めていたのだが)。「劣化ウラン弾は、敵側の戦車・装甲車などを破壊する目的で「貫通性」を高めるために放射性弾頭を用いた一種の「(核爆発のない)核兵器」(米英軍の戦車・戦闘機などに装備)であり、強い重金属毒性とともに放射能毒性を持っている」。ちなみに、劣化ウランは、核兵器や原発の核燃料製造の副産物として生じるため、米軍が使用した劣化ウランの中には日本産のものもあるという。
湾岸戦争で米軍戦車は十数両が深刻な損傷を被った。これはすべて同士撃ちで劣化ウラン弾を撃ち込まれたことによる。破壊された戦車は放射性物質に汚染されたものとして扱われ、汚染が深刻な6両は米国に持ち帰れず、サウジアラビアの砂漠に穴を掘って埋めた。残りはサウスカロライナ州の放射性廃棄物処分場に運ばれた。劣化ウランの"安全性"を対外的に主張する米軍が、内部では放射能汚染を認識していることになる。
対照的にイラクでは、劣化ウラン弾に破壊された戦車や建物などが放置されたままだ。「これほどひどいダブルスタンダードは歴史的にも稀だろう」と山崎さんは言う。
米軍戦車の汚染除去に携わったチームのトップが各メディアに明かしたところによると、チーム100人のうち10人が作業終了後、1年程度で死亡した。2001年の時点で30人が死に、このトップの体内からは平均的アメリカ人の1500倍のウラニウムが検出されたという。
劣化ウラン弾とは、日本も無関係ではない。ウラン濃縮によって排出される劣化ウランを日本の電力会社は所有放棄して、大半が米国やフランスに貯蔵されている。米国は自国に貯蔵されている劣化ウランから、劣化ウラン弾を作る。つまり米国の劣化ウラン弾の材料には、本来、日本の電力会社が所有すべき劣化ウランが混入していると山崎さんは指摘する。
日刊ベリタ:「イラクにぶちまけられた放射能兵器、「劣化ウラン弾」の恐怖 山崎久隆氏講演録」
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=200309161953232
恥知らずな劣化ウラン弾安全キャンペーンを推進してきた与党は論外としても、原水爆禁止日本協議会(原水協)を支援する共産党や、原水爆禁止日本国民会議(原水禁)を支援し、政府に「劣化ウラン弾による環境影響」に関する質問主意書を出した社民党までもが、日本を「唯一の被爆国」と見なしているというのは、あまりにもひどい話ではないだろうか。まして、日本が原発を手放さない限り、海外のウラン鉱山労働者や、国内外の輸送業者、国内の原発労働者は、これまでも、そしてこれからも、日本のせいで被爆し続けてきた(いく)のである。それも「平和」的に。
伊藤孝司:「原発輸出・ウラン鉱山」
http://www.jca.apc.org/~earth/sub1d.html
美浜の会:「日本の原発奴隷」
http://www.jca.apc.org/mihama/rosai/elmundo030608.htm
もっとも、「日本唯一のクオリティマガジン」である『世界』も、2009年6月号の記事で、日本を「唯一の被爆国」と呼んでいたので、こうした人々は、単に
- 自分たちと立場の違う人間(主に外国人)のことはどうでもよい
- 自分たちはとにかく「唯一」の存在である
と言ってみたいだけなのかもしれない。ということは、やはり、あまりにもひどい話ではないか。『世界』の記事については後述する。
次回に続く。