「唯一の被爆国」は北朝鮮の核実験を非難できるか(3)

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 だいぶ間が空いてしまったが、前回の続きから。

「ああ、日本という国は…」

 せっかくなので、先週号(5/27号)の『マガジン9条』の「コラムリコラム」も、まとめて批判しておく。

 コラムリコラムというものにきちんと目を通したのは初めてなのだが、「放光院+α」という執筆者*1によるこの連載は、「マガ」と「ジン」という架空のキャラクターによる対談形式を取っている。

 架空対談といえば、佐藤優週刊金曜日誌上で繰り広げる「佐藤優 ××と語る」というカルトじみた企画(××にはマルクスやらエンゲルスやらムッソリーニやらが入るので、佐藤は死者を騙る怪しげな霊媒師のようなものである)がそうであるように、対等な立場で他者と論争をしようとしない、腐った言論「業界」人の必殺技としても定着しているように思う。もっとも、佐藤優言論の自由そのものを否定しているのだから、もともと言論人でも何でもないのだが。

 話が逸れてしまったが、以下が問題のコラムリコラムである。

ああ、北朝鮮という国は…

マガ 「そんな揺れる朝鮮半島情勢に油を注ぐような、25日の北朝鮮の核実験。なんという… 」

ジン 「ほんとうに困った国だ。いったい何を考えてるんだろう。どうも、金正日総書記の健康不安が背景にあるようだ。とにかく一刻も早くアメリカとの単独交渉に入りたい。そのためにはもう、他の国の事なんか構っちゃいられない。6カ国会議なんか、完全無視。あまりの駄々っ子ぶりに、北朝鮮に大きな影響力を持つといわれる中国さえ、頭を抱えている状況らしい。 」

 日本は分別のある大人であり、朝鮮は出来の悪い子どもである、というおめでたい世界観は、端的に言って、明治以降の日本人が慣れ親しんできた妄想である。こうした妄想は、「先進国」(新旧植民地主義国)の間では一定の共感を呼ぶこともあるかもしれないが、アジアでは相手にもされないだろう。梶村秀樹は、太平洋戦争の時期における日本人の朝鮮観について、次のように述べている。

 「「内地人」は兄貴分である。弟分で一段下のものである朝鮮人は、導かれるべき存在である。一段下とみなして露骨に侮蔑するか、優越者の立場から恩恵がましくいろいろな対応をするかは、形のあらわれ方は違っても、根本は同じであるわけです。この時代においては、たてまえとしては、露骨に差別することよりは、いわば優越者として、日本化するように導いてやるべきだ、「弱者」である朝鮮人に対してそういうおおような態度をとるべきではないかということが、政策的に強調された。こういうふうに構えることを日本の民衆に要求した。しかしもちろんこの時代も実体としては露骨な差別もすさまじかった。「かわいい弟分」をもっとも危険な労働の場にほうりこむことが、どうしていたわりなどでありえましょうか。しかも日本の民衆は無意識のうちにみずからが、このたてまえに従って朝鮮人に対しているかのごとく錯覚ないし自己欺瞞するようにさえなった。歴史の中で身についたこんな感性が、われわれが知ろうが知るまいが、戦後にも引き継がれてきているように思われるのです。」*2

 「あまりの駄々っ子ぶりに、北朝鮮に大きな影響力を持つといわれる中国さえ、頭を抱えている状況らしい」というあたりにも、適当な決めつけ感が漂っているが、北朝鮮バッシングに現を抜かして六カ国協議をことごとく妨害してきた日本に対しては、中国どころか、ほぼすべての当事国が「頭を抱えている」のではないか。

マガ 「それにしても、この機に乗じて、またもや自民党筋や右派論者からキナ臭い意見が聞こえ始めた。敵基地先制攻撃論とか、ついには日本核武装論までね。 」

ジン 「それだけはなんとしてでも防がなければいけない。日本の政治家がそんなことを言い出すだけでも、アジアに不安定要因を作り出す。それに気づかないのかなあ、この人たちは。アメリカだって、日本の核武装なんかには、絶対に同意しない。そんなことを声高に言い出せば、日米はむしろ敵対関係に陥りかねない。つまり、今まで日米同盟一辺倒できた人たちが、今度は核武装を言うことでアメリカを敵に回すことになる。そんな矛盾だらけの論理に気づかない程度の政治家たち。 」

 『マガジン9条』が「それだけはなんとしてでも防がなければいけない」と考えているのが、敵基地先制攻撃や核武装だというのだから、今さらながらお寒い話である。「護憲派」として譲れない一線が敵基地先制攻撃や核武装への異議でしかないのなら、それらを主張しない人間は誰であれ「護憲派」であり、そうした人々は「護憲」のもとに「大同団結」できるはずであるということになる。

 言うまでもないが、こうした「護憲派」の定義は、女性を蹴り殺さない男性は誰もが「フェミニスト」なのだから、そうした人々と手を取り合ってフェミニズム運動を盛り立てていこう、という場合の「フェミニスト」の定義と同じくらい、激しく破綻している。あたかも、たいていの人間が「護憲派」であるかのような、こうした定義の空洞化は、運動全体を空洞化し、実質的な護憲派を運動内部のマイノリティとして回収し、孤立させる効果をもたらす点で、有害極まりないものだと思う。

 核武装に反対する根拠が、「アジアに不安定要因を作り出す」からであり、「アメリカだって・・・絶対に同意しない」からだというのも、実にすさまじい。この先の文章を読む限り、「アジアに不安定要因を作り出す」というのは、日本こそがアジアの「不安定要因」であるという自戒などではさらさらなく、日本国内で展開される核武装(論)によって、中国や北朝鮮、韓国といった国々で「反日ナショナリズムが高揚し、そうした国々が「アジアに不安定要因を作り出す」ということを言っているように思われる。

 「アメリカだって・・・絶対に同意しない」というくだりにいたっては、まるで米国こそが最大の護憲勢力であると述べているようなものである。「護憲」までもが米国頼みだというのは笑える話だが、米国が憲法9条を守ってくれるということなら、もう『マガジン9条』は廃刊にして、「護憲派」もこのまま流れ解散すればよい。そうなったところで、別に当事者以外は誰も困らないだろう。

マガ 「そして、またもや偏狭なナショナリズムに煽られた人たちが、在日の朝鮮人や韓国人を襲ったりする。北朝鮮は結果として、自ら同胞を傷つけることに手を貸しているとしか思えない。ほんとうに困った国だな。 」

 「偏狭なナショナリズムに煽られた人たちが、在日の朝鮮人や韓国人を襲ったりする。北朝鮮は結果として、自ら同胞を傷つけることに手を貸しているとしか思えない」

 ・・・思わねーよ。ZEDさんから以下のコメントをいただいたが、まったく同感である。

 「在日朝鮮人が抑圧されるのは飽くまで北朝鮮が悪く、「在日の朝鮮人や韓国人を襲ったりする」「偏狭なナショナリズムに煽られた人たち」や日本政府の差別的な姿勢を全く問題にしてません・・・要するにマガジン9条はこう言いたいのでしょう。「在日に対する差別や抑圧・暴力は北朝鮮が悪いのであって、日本人及び日本政府は悪くないし差別もしていない」自分達の後ろめたい差別根性を免罪してごまかす為に北朝鮮を口実にする、最低な連中です。」

 自分たちの蛮行の責任を朝鮮になすりつけることに関して、日本ほど最低な歴史を持ち、しかもそれを日々更新している国は、他にはちょっと見当たらない。以下は、梶村秀樹による1986年の文章だが、23年後の今日ではいっそう最低ぶりに磨きがかかっているように思われる。なんといっても、来年度から中学校で使われることになる(今年の8月15日までに採択される)歴史教科書9冊のうち、東京書籍と扶桑社の2冊には安重根の名前さえ載っていないのだから。

 「天皇が「人間宣言」をしたという事実を記すことをその神聖性をけがしはしないかと恐れてためらったほどの、猛烈な天皇崇拝主義者たちが執筆した「日本を守る国民会議」の高校日本史教科書が、隣国との不協和音をかもしつつも、強引に登場してこようとしている。」

 「その「日韓併合」のくだりをみると、「明治四十二年(一九〇九)、前統監伊藤博文満州視察の途中、ハルビン駅頭で、韓国独立運動の壮士安重根に射殺され、日韓関係は最悪の事態をむかえ、ここに併合問題は急速に進展した。翌年八月、両国間で併合条約が調印され、日本は統治機関として朝鮮総督府をおいてすべての政務を統轄することとなった」と記述されている(原稿本による)。つまり、ここでは侵略はもちろん、植民地化という言葉すら意識的に避けられている。「併合問題」はごくあたりまえのことのように、だれのせいでもなくおのずから進行し、それが急進展したのはむしろ安重根のせいだといっているわけだ。」*3

 ちなみに、「日本を守る国民会議」は、現在は「日本会議」として、佐藤優とも絡み合いつつ、ますますご盛栄でいらっしゃるらしい。

 きまぐれな日々:「田母神俊雄の「コミンテルン陰謀論」は「日本会議」公認つき」
 http://caprice.blog63.fc2.com/blog-entry-785.html

ジンオバマ大統領の核廃絶政策にも、水を差している。日本は唯一の被爆国としても、絶対に核武装論なんかか言い出すべきじゃない。より一層強く、核廃絶を大きな声で世界に向けて発信しなければならない。それが、原爆で亡くなった人たちへの、我々が負わなければならない最低限の義務であるはずだよ。 」

 コラムリコラム:「第3回 おお、「貧者の埋蔵金」!?」
 http://www.magazine9.jp/koramuri/090527/

 「唯一の被爆国」とやらの問題については、次回から見ていくことにするが、北朝鮮の核実験が「オバマ大統領の核廃絶政策にも、水を差している」という空疎な言説には、日本の「平和主義」の内実が端的に示されていると思う。

 思うに、こういう虚構を信じている(信じようとしている)人たちは、北朝鮮が核実験をしたことにむしろ感謝するべきなのではないか。なぜなら、そう信じることによって、核廃絶が挫折する原因を、北朝鮮に一方的に転嫁することができるから。そして、自分たちとオバマの欺瞞に向き合うことを回避し、「平和主義者」として自己肯定することができるから。ある意味では、北朝鮮に対する「義憤」の強さは、自己が抱える欺瞞の強さに比例している、と言えるかもしれない。

 それにしても、「悪いのは全部北朝鮮なんです」というのは、「護憲派」としてあまりにも冴えない末路ではないだろうか?ってまだ末路じゃないんだっけ?

差別意識を克服しようとしない「護憲論」

 ところで、『マガジン9条』には、「みんなのこえ」という読者投稿欄がある。前述の「コラムリコラム」に関する投稿もいくつかあるので、ざっと見ていきたい。

TY生さん(69才・男性・三重県

「コラムリコラム」欄に北朝鮮の核実験の機に乗じて

・・・米国の「核の傘」に安全保障を依存して米国に対して核軍縮や核の先制不使用宣言を求めることをしない政府は、核廃絶を世界に呼びかけながら、自らは核の抑止力を是認する矛盾した考えで、正真正銘の核廃絶論でない。

 オバマ大統領は、武器に訴えようとする呼びかけは、武器を置くように呼びかけるよりも、人々の気持を湧き立たせる。だからこそ平和と進歩に向けた声は、共にあげなければならないと述べた。至言である。進歩に向けた声、理念は日本の平和憲法の理念である。

 みんなのこえvol.189:「5月27日から6月2日に届いたご意見から」
 http://www.magazine9.jp/minna/maru_189.php

 前半はほぼ同意するが、後半は意味がわからない。米国は、イラクでもアフガニスタンでも、その他世界のどこでも武器を置こうとはしていないし、まるでオバマが「日本の平和憲法」の代弁者であるかのような発言は、ブラックユーモアとしては実に機転が効いていると思うが、本気で言っているなら噴飯物である。

 【6/7 追記】この部分は誤読かもしれません。kusukusuさんから以下のご指摘をいただきました。
http://d.hatena.ne.jp/m_debugger/20090604#c1244189540

 以下、益岡賢さんの「イラク侵略から6年 ファルージャ虐殺から5年」から引用する。

2009年3月20日。米国が国際法に違反し、世界中の人々の反対を無視してイラクに侵略してから6年。夕方6時のNHKニュースは、米軍撤退へ向けた「イラク治安部隊」への「治安の移譲」状況を報じていた。米軍撤退後、イラク治安部隊は治安を担えるのかという問いを立てて、自らの知的崩壊を如実に示しつつ。

「俺がいないとお前はダメなんだ、お前には俺が必要だ」と、金もあって力も強いストーカーが言い、相手を拉致拘束して虐待を始める。ついでに相手の財産も略奪して。

このストーカー氏のために「やはりそうですよね、ストーカーさんがいないとあの人はやってられないでございますよね」とゴマをスリつつコンビニに買い出しに行ったりするトリマキ氏がいる。たとえばニッポンの小泉純一郎氏とその取り巻きと多くの大手メディア。

で、ストーカー氏が略奪も済んだしわずらわしくなってきたから拘束を手抜きしようかなと考え始めたときに漏らした言葉が「俺がいなくてお前がやっていけるかどうか心配だ」。トリマキ氏はすかさず「そうですよね、やはりストーカー氏がいなくなるとあの人がどうなるかわかりませんよね、心配です」。

いや、何はなくともストーカー氏による拉致拘束と虐待がなくなるはずだし、食べ物をストーカー氏に提供されていたのは拉致拘束されてたからだし、その金も実は(少なくとも一部は)もともと自分のものを略奪されたわけだし。

いない方がはるかにいいんですが。法的にはストーカー氏に賠償責任があるんですが。それでも殺された人と破壊されたものは戻ってこないんですが。

 益岡賢のページ:「イラク侵略から6年 ファルージャ虐殺から5年」
 http://www.jca.apc.org/~kmasuoka/places/iraq090322.html

 再び「みんなのこえ」に戻る。

十文字(衆愚代表)さん(34才・男性・沖縄県

このままじゃ、憲法9条は「コラ、ムリだ」

 ・・・現在の所、最大のアジアの不安定要因は、言うまでもなく北朝鮮の核やミサイル開発であり、平和主義者は、それを打開する手立てすらも見出せません。日米ではなく、北朝鮮にメンツを潰された中国の武力介入で事態を打開する可能性もあります。

 9条の精神に最も試練を与えているのは、北朝鮮です。そして、その試練に耐えられなければ、9条は日本人には”もったいなかった”ことになるでしょう。

 「北朝鮮にメンツを潰された中国の武力介入で事態を打開」
 「北朝鮮にメンツを潰された中国の武力介入で事態を打開」
 「北朝鮮にメンツを潰された中国の武力介入で事態を打開」

 ・・・大丈夫か?もう脳を「打開」した方がいいんじゃ・・・。

さくらさん

北朝鮮の核実験に思うこと

 北朝鮮の核実験については、断固非難します。こういうことがあると、核武装の「議論」を、声高に主張する政治家が出てきます。もし、日本が核武装をするとすれば、国際原子力機関IAEA)の査察を拒否、核拡散防止条約(NPT)を脱退、核実験の実施という段取りになると思います。結局、核武装論者が忌み嫌う北朝鮮と同じあゆみです。

 北朝鮮と同じ事をすればどうなるか、簡単に分かると思うのですが…。

 北朝鮮と同じ」にはなりたくないという差別意識に訴える「護憲派」は、排外主義者に語りかける一方で、北朝鮮朝鮮人を対話の相手と見なすことはないのだろうな、と。

三十郎さん(31才・男性・東京都)

また先制攻撃論か?

 ため息が出ます。(北朝鮮に対する)先制攻撃論を唱えている人たちは、本当に国益のことを考えているのかね。反撃の口実を与えるだけではないか。だいたいこの手の主張をする評論家は、少なくともテレビ番組では他人の発言を聞くことができない。自分の健康や財産または家族を喪う可能性のない人たちしかそのようなことを主張できない。最近この手の発言する女性論者もいますね。戦場に行く必要ないですから。イスラエルみたいに。

 愛国主義的「護憲論」の典型。最後の方は、なんだか日本がイスラエルのような国になればよい、と言っているようにも思えるが、日本では「戦争に行く必要ない」のは男性も同じなのだが。男女とも徴兵制があれば女性が好戦的にならないというジェンダー観は、イスラエルを見ても明らかに間違っているのだが。

5Bさん

今週の『マガジン9条』

 いつも面白い記事をありがとうございます。ただ、北朝鮮が核実験を起こすに至った過程を作った要因として、米国や日本の強硬路線があるのではないかと思い、いろいろ調べようかと思っているのですが、いきなり「やらかしてくれました」というのでは商業メディアの報道と何も変わらないのではないでしょうか。また、オバマ大統領の「核廃絶」宣言を手放しで褒め称えるのは時期尚早だと直感的に私は思っています。

 ・・・普通すぎてむしろびっくり。

 次回に続く。

*1:「放光院+α」というペンネームの人が一人で書いているのか、それとも「放光院」というペンネームの人とその他(+α)の人が複数で書いているのかは、よくわからない。

*2:梶村秀樹、『梶村秀樹著作集 第一巻 朝鮮史と日本人』、明石書店、1992年、p.289

*3:前掲書、p.267