「唯一の被爆国」は北朝鮮の核実験を非難できるか(1)

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北朝鮮バッシングは「フェーズ5」:震源地・日本より

 25日に北朝鮮が行った地下核実験をめぐって、北朝鮮バッシング(「フェーズ5」*1)が震源地・日本各地で猛威を振るっている。

 例によって、翌朝には各紙が2段ぶち抜きで北朝鮮バッシング社説を組んでいるが、どれも変わり映えのしない内容で、ハンバーガーとハンバーガーとハンバーガーとハンバーガーとハンバーガーが並んでいるような感じである。新聞社も最近は不景気らしいから、いっそのこと、もう全紙が合併したらいいんじゃないだろうか。少なくとも、北朝鮮関連報道については、「「朝鮮のやることはすべて理解できず、許せない」という差別的・植民地主義的思考」によって以前から大同団結しているのだから、社説が全紙共通になったところで、実害を被る読者がいるとも思えない。

 北朝鮮バッシングによって大同団結しているのは、メディアだけでなく政党も同じである。26日から27日にかけて、衆参両院で、北朝鮮の核実験を非難し、北朝鮮への制裁強化を政府に求める北朝鮮核実験抗議決議が全会一致で採択された。各政党もそれぞれ声明や談話を発表している。実質上の対北朝鮮共同戦線が張られているのである。

 昨日、共産党の党員たちが駅前で街頭演説と署名の呼びかけをしているのを見かけたが、内容は、上の談話の通り、北朝鮮をひたすら一方的に非難するだけのものだった。選挙も近いし、ここで北朝鮮を叩いておかないと票が取れないという計算もあるのだろうが、対北朝鮮強硬論を望む有権者は、そもそも最初から共産党など選ぶはずがないだろう。まさに捕らぬ票の皮算用である。

 ちなみに、どうでもよいことだが、一緒にいた友人が受け取ったビラ(縦書き)を見せてもらったところ、なぜか句点や括弧のところだけ文字方向が横になっている箇所があり、右下に来るはずの句点が左下に来ていたり、括弧が90度回転していたりという、かなり残念なレイアウトになっていた。きっと、この人たちは、北朝鮮をバッシングするためだけに、慣れないパソコンの前で何時間にも及ぶ苦節をなめたのだろうな、と他人事として思う。まるで『プロジェクトX〜挑戦者たち〜』のような、あまりにも日本的な「美談」だな、と。

 というのは別にどうでもよい話である。それにしても、日本が被害者意識を振りかざして北朝鮮の核実験を一方的に非難することと、イスラエルパラノイア的被害者意識を掲げてハマスのロケット弾をののしることの間には、一体どれだけの違いがあるのだろう?

 そもそも、浅井基文さんが指摘しているように、4月13日の国連安保理議長声明を受けて、「朝鮮が6者協議離脱及び核兵器開発の再開を表明したことは、声明に対する対抗措置としては当然」のことではないのか。なぜ、今さら「遺憾の極み」などという、白々しい「抗議」ができるのか?あまりにも「遺憾」の内容が薄っぺらすぎじゃないのか?

朝鮮民主主義人民共和国(以下「朝鮮」)が14日の外務省声明で核兵器開発の再開と6者協議からの離脱を表明したことは、事前の予告通りの対応であり、この議長声明の内容からすれば、当然の行動だったと言わなければならないでしょう。朝鮮が強硬な対抗措置を取るだけの内容を声明が持っていたことは間違いないことだと思います。

 21世紀の日本と国際社会:「朝鮮の「打ち上げ」に関する国連安保理議長声明」
 http://www.ne.jp/asahi/nd4m-asi/jiwen/thoughts/2009/282.html

 ところで、今回の北朝鮮の核実験に対しては、広島・長崎の被爆者からも強い非難の声が上がっている。

 中国新聞:「核廃絶の機運に冷や水 広島・長崎の被爆地の憤り、激しく」
 http://www.chugoku-np.co.jp/News/Sp200905250213.html

 けれども、北朝鮮の核実験を、「唯一の被爆国」という立場から非難しようとする言説は、果たして核廃絶の実現を後押ししてくれるのだろうか?結論から言えば、私は、日本が「唯一の被爆国」として、被爆体験の語りを占有していることこそが、核廃絶を実現する上での最大の障壁(のひとつ)であると考える。そして、それは北朝鮮による核実験とは比べ物にならないほど、核廃絶をめぐる致命的な問題である、と。

 次回に続きます。

*1:2カ国以上でヒトからヒトへの感染が確認される段階