もうひとつのホロコースト(1)

 いきなりのコンゴ・タグ出現。今日のエントリーは、パレスチナから4500キロほど離れたコンゴについて。

 といっても、コンゴのことはパレスチナ以上に知られていないと思うので、まずは地図で位置確認を。一枚目の地図の黒塗りの部分が、やや大雑把な歴史的コンゴコンゴ王国)です。二枚目の地図は、ヨーロッパがアフリカ分割争奪を終えた後のコンゴで、黄色の部分が旧ベルギー領(現在のコンゴ民主共和国)、青色の部分が旧フランス領(現在のコンゴ共和国)、緑色の部分が旧ポルトガル領(現在のアンゴラ)というように、植民地時代の分割線がそのまま現在の国境線になっています。


歴史的コンゴ



1884年(ベルリン会議

 では、さっそく踏み台にする朝日の記事を。

コンゴで865人虐殺 ウガンダの反政府組織(2009.02.20 朝日新聞 9面)

http://www.asahi.com/international/update/0219/TKY200902190299.html

 【ゴマ(コンゴ〈旧ザイール〉東部)=古谷祐伸】コンゴ北東部で08年12月24日から09年1月17日にかけ、ウガンダの反政府組織「神の抵抗軍(LRA)」が住民865人を虐殺したとして、国際人権団体「ヒューマン・ライツ・ウオッチ(HRW)」が報告書を出した。
 報告書「クリスマスの虐殺」によると、現場はスーダン国境付近。12月25日にはファラジェという町のキリスト教会で、コンサートに来た住民が約200人のLRAの集団に襲われ、143人が死亡、160人が誘拐された。その西約250キロの町ドルマと周辺13村は、25日からの3日間に次々襲撃され、約300人が死亡。クリスマスの集まりが狙われ、住民はゴムチューブなどでしばられ、なたやこん棒でなぐり殺されたという。
 LRAは87年から、ウガンダ北部で子ども兵誘拐や住民の殺害を繰り返してきた。06年ごろ、拠点をコンゴに移したと言われる。指導者のコニー容疑者には、国際刑事裁判所から逮捕状が出ている。

 ・・・さっぱり何もわからない、と思ったのは自分だけだろうか?朝日に限らず、日本のクオンティティペーパー*1は、紙面の5割以上が広告だったりする*2ので、記者の個人的な責任を問うつもりは、少しはあるけど、あまりない。だって、これだけの事件を400字程度でまとめようとすること自体が、どう考えても無理なんだから。『20世紀少年』のストーリーを、

「ともだち」と戦う話

とか10字でまとめちゃうくらい無謀だろ、と思う。そもそも、「ともだち」(「神の抵抗軍」)とは何かという問題をスルーして、『20世紀少年』(「クリスマスの虐殺」)は説明できない。*3そんなわけで、上の記事を読んだだけでも、次のような疑問がわいてくる。

  1. 神の抵抗軍」とは何か?
  2. なぜ、「神の抵抗軍」は、コンゴの住民を(銃やナイフなどではなく)「ゴムチューブ」や「なたやこん棒」で殺害したり、子どもを誘拐したりするのか?
  3. なぜ、「神の抵抗軍」は、20年以上もこうした行為を続けていられる(続けなければならない)のか?
  4. なぜ、「神の抵抗軍」はコンゴに拠点を移したのか?ウガンダコンゴの関係は?
  5. 神の抵抗軍」の指導者であるコニー容疑者とは誰か?

 ここでは、子ども兵士の問題がひとつの手がかりになると思う。けれど、その前に、コンゴの歴史を紐解いてみよう。そこには、アフリカの人々以外にはほとんど知られていない、もうひとつのホロコーストの記憶がある。

 ベルギー国王レオポルド二世は、一八八五年からのほぼ二〇年間に、アフリカ大陸中央部のコンゴの「闇の奥」でコンゴ人の大量虐殺を行った。ヒトラーユダヤ人大虐殺に先立つことわずかに三〇余年、数百万人抹殺というその規模も同じである。コンゴでの大量殺人はナチ・ホロコーストの序幕であったとする歴史家もいる。ところで、ユダヤ人の大虐殺は誰でも知っている。数百万とは大げさかも、と言っただけで法律的に罰せられる国もある。
 しかし、コンゴ人大虐殺の方はほとんど誰も知らない。現代人の記憶と意識から見事に拭い去られている。これは一体どいういうことか?この奇怪な歴史の現実の奥に目を凝らせば、コロニアリズム植民地主義)とは何か、帝国主義とは何か、そして、「ヨーロッパ」とは何なのか、私の言葉で言えば、これらすべての現実を生み出してきた「ヨーロッパの心」(European Mind)とは何なのかが、やがてはっきり見えてくるであろう。*4

『闇の奥』の奥―コンラッド/植民地主義/アフリカの重荷

『闇の奥』の奥―コンラッド/植民地主義/アフリカの重荷

 次回に続く。本書は超お勧めです。

*1:大新聞のこと

*2:第3種郵便物の基準に違反していることになる。 http://www.mynewsjapan.com/reports/1004

*3:もっとも、『20世紀少年』の場合は、字数とは無関係に、最後まで読んでもストーリーは説明できないよ、とも思うけど。

*4:藤永茂、『『闇の奥』の奥 ―コンラッド植民地主義・アフリカの重荷―』、三交社、2006、p.33