仕組まれた無知の連鎖――後退する中東報道(3)

 昨日の続き。今日はイスラエルの総選挙なので、さくさく進めるよ。

ガザ攻撃―――黙認された罪なき人々の犠牲 米国が掲げる人道はどこへ (2009.01.27 毎日新聞 8面)

 http://mainichi.jp/select/world/news/20090127ddm007030030000c.html

 だが、問題は米国と国際社会の乖離(かいり)である。米国の2人の大学教授が書いた「イスラエル・ロビーとアメリカの外交政策」(講談社)によれば、米国は72年から06年の間に、イスラエルに批判的な42の国連安保理決議を拒否権で葬り去った。こうした状況で世界の懸案を公正に解決できるのか、拒否権行使は本当にイスラエルの平和につながるのか、という重大な問題がある。

 まずは「問題は米国と国際社会の乖離である」について。国際社会と乖離することが、そのまま問題行動である、とは言えないだろ常考。いじめは、いじめっ子がクラスから浮いてるからでも、いじめっ子がクラスメートをうまく取り込んでるからでもなく、いじめという行為そのものとして、批判するべきなんだから。とすれば、クラスから浮きまくっていた落ちこぼれのブッシュよりも、クラスメートを巧みに抱き込もうとするオバマ学級委員長の方が、もしかすると、世界にとっては、よっぽど厄介な存在なんじゃないだろうか?*1

 次に、米国が「世界の懸案を公正に解決できるのか」について。よくわかんないんだけど、米国が「世界の懸案を公正に解決」した事例って、有史以来何かあったんでしょうか?いやマジで何一つ思いつかないんですけど、誰か知ってる人いたら教えてもらえます?*2

 最後に、「拒否権行使は本当にイスラエルの平和につながるのか」について。『イスラエル・ロビーとアメリカの外交政策』の結論は、イスラエルアメリカにとっての戦略上の資産ではなく、むしろ戦略上の負債であり、重荷である、というもの。この主張が正しいとすれば、どうして米国はイスラエルという重荷を抱え続けているのだろう?この問題に対するひとつの興味深い解釈は、たとえば次のようなものである。

 「アメリカとイスラエルとはともに、神に託された使命に基づき、他民族が住んでいる土地に侵入して、他民族を虐殺あるいは追放して建国した国であり、その点でアメリカは自己をイスラエルと同一視しており、したがって、アメリカにとって、イスラエルの正当性が崩れることはアメリカの正当性が崩れることを意味し、断じて、あってはならないのである」

 「アメリカは、共同幻想としてのアメリカを守るためにはイスラエルを守らなければならない。アメリカがイスラエルを守るのは、アメリカのユダヤ人が大統領選挙に莫大な資金を献上するとか、ジャーナリズムを握っているとかの現実的理由のみによるのではない」

 「アメリカの現実的国益から言えば、イスラエルを守ったところで大してメリットはないし、イスラエルが滅びたところでアメリカは別に困るわけでもない。にもかかわらず、アメリカの国際的評判を落とし、イスラム教徒に憎まれてまでもあれほど必死にイスラエルを守るのは、アメリカの国家としての「自我」にかかわっているからである」

一神教vs多神教

一神教vs多神教

 「ガザは時限装置付きの原爆だ」とアラブ系ジャーナリストから聞いたのは、イスラム原理主義組織ハマスがガザで旗揚げした80年代後半だった。希望がなくなると過激な勢力に支持が集まる。力で抑え込もうとすれば相手はますます過激になり、こちらの攻撃も激しくなる。誰も止めなければ「過激」と「過剰」の争いはエスカレートするだけだ。

 「「過激」と「過剰」の争い」って、どう考えても、イスラエルの野党リクードと与党カディマのことじゃないのか?ついでに言えば、パレスチナ側を「相手」、イスラエル側を「こちら」って書いてる時点で終わってるでしょ。毎日も朝日に続いて、イスラエル支援企業リスト入り決定だね。

 ハマスも考えなければならない。かつてハマスの幹部は、パレスチナ自治区での独立国家樹立に満足せず、イスラムの連帯による「大きな家」を建てたいと語った。これはイスラエルとの果てしない戦いにつながる。だが、戦火に耐える庶民の苦しみを思えば、非現実的な夢を追わない勇気も必要ではないか。

 いやー、思わず吹いちゃったよ。ここまで強固な鉄のごとき無知への意志(©toledさん)がないと、やっぱり大新聞の論説委員にはなれないのかな?あのね、イスラエルが進めている占領政策(入植地の拡大、分離壁の建設、経済封鎖・・・)を容認した上での「パレスチナ自治区での独立国家」なんて、バンツースタンの別名でしかないんだよ。

 著作者:現代企画室『占領ノート』編集班/遠山なぎ/パレスチナ情報センター
 http://palestine-heiwa.org/map/s-note/

 かつてハマスの幹部が口にしたという「大きな家」を批判して、イスラエルで公然と主張されている大イスラエル主義*3を不問に付すのは、なんでだよ?イスラエルの軍事力を持ってすれば、大イスラエル主義も「非現実的な夢」ではないからだとでも?

 まあ、要するに、こういうことかもね。

  1. 60年以上も夫に暴力を振るわれている妻がいる。
  2. かつて、彼女は、DV被害者の会(「大きな家」)を立ち上げて夫と戦うことができたら、どんなにいいだろう、と思っていた。
  3. ところが、近所のママ友だった山田さん(エジプト)も鈴木さん(ヨルダン)も、いつのまにか夫に取り込まれてしまったので、妻はおそるおそる夫に離婚(1967年グリーンラインの遵守)を持ちかけることにした。
  4. すると、夫は激怒して、彼女と子どもをスパナで滅多打ちにしてきた。妻は大根(カッサムロケット)を片手に応戦したが、子どもは顎の骨を割られて入院する。
  5. 毎日新聞論説委員、布施広記者の言葉。:「父親の暴力に耐える我が子の苦しみを思えば、非現実的な夢を追わない勇気も必要ではないか」

 終わり。

*1:少なくとも、オバマアフガニスタンでやろうとしていることは、そうした文脈から捉えるべきだと思う。

*2:ハリウッドとか漫画以外で

*3:ガザ・西岸地区をすべてイスラエルに併合してパレスチナ人を追放しようとする思想運動。ちなみに、ガザ・西岸地区での入植と占領政策を放棄しようとする小イスラエル主義も、1967年以前の違法な入植地を手放そうとしない点で十分批判に値する。