パレスチナ版『シンデレラ』

 コメント欄でラノベを書いてほしいというリクエストをいただいたので、β版として童話を改造したパレスチナ版『シンデレラ』をリリースします(全面改訂しました)。

パレスチナ版『シンデレラ』

 むかしむかし、とても美しくて優しい娘がいました。娘のお母さんは、娘を生むために病院に行く途中でイスラエル軍に撃たれて亡くなってしまいました。お父さんは二度目の結婚をしたので、娘には新しいお母さんと二人のお姉さんができました。

 ところが、新しいお母さんと二人のお姉さんは、とてもいじわるだったのです。新しいお母さんは、自分の二人の娘よりもきれいな娘が気に入りません。

「まあ、あんたは、なんて醜い娘でしょう」

 三人はつらい仕事をいつも娘に押しつけました。寝床は粗末なわらぶとん。服はつぎあてだらけ。シャワーも浴びることができず、娘の頭にはいつも灰がついていました。そこで三人は娘をシンデレラ(=灰かぶり)と呼びました。

 けれども、シンデレラは、自分がいじめられていることに気づきませんでした。イスラエル軍が毎晩のように村を攻撃してくるので、ベッドも服も燃えてしまい、経済封鎖で断水が続いていたからです。村では誰もがシンデレラと呼ばれていました。

 ある日のこと、イスラエル軍が、パレスチナ中のイケメンを集めた刑務所を作ることになりました。シンデレラのお父さんもイケメンだったので、イスラエル軍に連れて行かれて、刑務所に入れられてしまいました。お姉さんたちは、お父さんとの面会にかこつけて、イケメンの男たちを見に行こうと大はしゃぎです。

 シンデレラは、朝四時に赤十字のバスに乗って面会に向かうお姉さんたちを笑って送り出しました。それから悲しくなって、シクシクと泣きだしました。

「私もイケメン眺めて癒されたいわ」
「泣くのはおよし、シンデレラ」
「・・・あなたは誰?」

 シンデレラの目の前に、妖精が現れました。

「シンデレラ、おまえはいつもいい子ですね。ごほうびに、刑務所へ行かせてあげましょう。まず、畑でカボチャを取っておいで」
「うちの畑は、分離壁イスラエル側にあって、もう一年も通行許可が降りていないわ」
「おやまあ。それではこのクラスター爆弾を使いましょう」

 妖精が、台所に転がっていたイスラエル軍の不発弾を杖で叩くと、なんと、金の戦車になりました。

「まあ、りっぱな戦車。すてき」
「まだまだ、魔法はこれからよ。さてと、戦車を動かすには、兵士が必要ね」

 妖精は、杖でハツカネズミにさわりました。すると、みるみるうちに、立派なレジスタンス戦士になりました。

「ほらね、戦車に兵士。さあシンデレラ。これで刑務所に行くしたくができましたよ」
「うれしい。ありがとう。・・・でも、こんなドレスじゃ」
「うん?そうね、忘れていたわ」

 妖精が杖を一ふりすると、みすぼらしい服は、たちまち輝くような美しい戦闘服に変わりました。そして、小さくてすてきな、ガラスの爆弾もくれました。

「楽しんでおいで、シンデレラ。でも、私の魔法はフォックスニュースが始まる12時までしか続かないの。決してそれを忘れないでね」
「わかったわ。行ってきます」

 シンデレラは、イスラエル軍に止められることもなく、検問所をつぎつぎに飛び越えていきました。いつもはシンデレラに石を投げてくる入植者たちも、金の戦車を見ると、飛び上がって逃げ出していくのです。いつもこの戦車があればいいのにと、シンデレラは思いました。

「そうすれば学校にも毎日通えるわ。それにしても、なんて気分がいいのかしら」

 楽しい時間は、あっというまに過ぎました。シンデレラが刑務所に着くと、12時15分前になっていました。

「あら、いけない。・・・おやすみなさい、イスラエル兵」

 シンデレラは、刑務所の入口にいたイスラエル兵に向かってガラスの爆弾を投げると、来た道を急いで戻っていきました。ところが、最初の検問所にさしかかったときに魔法がとけてしまい、戦車も兵士も消えて、服もみすぼらしい服に戻ってしまいました。

「これでは家に帰れないわ。どうしましょう」

 シンデレラが辺りを見回すと、赤十字のバスが止まっていました。窓から中をのぞくと、シンデレラのお姉さんたちが、すやすやと眠っています。シンデレラは、窓からバスの中に忍びこむと、お姉さんたちに見つからないように、座席の下に隠れました。

 そこへ、ガラスの欠片を持ったイスラエル軍の兵士たちが、やって来ました。

「このガラスの爆弾を投げたテロリストを探している。10才くらいのクソガキだ」

 シンデレラのお姉さんたちは、びっくりして飛び起きました。

「あたしじゃないわ!もう14才だもの!」
「あたしだって、もう13才よ!」

 兵士たちは二人を撃ち殺してしまいました。兵士の一人が言いました。

「めんどくさいから、まとめて殺してしまおう」

 バスに乗っていた子どもたちは、恐ろしさのあまり、口もきけません。

「あらあら、わたしの出番ね」

 そこへ、あのときの妖精が現れました。妖精が杖を一ふりすると、座席の下から、まぶしいほど美しいテロリストになったシンデレラが出てきました。こうして、シンデレラは兵士に撃たれて、死んでしまいましたとさ。

 おしまい。