「出口のない流血」という欺瞞(1)

 1月10日から18日までの東京・大阪のイベント情報を今日のエントリーに転載しました。イスラエル軍のガザ攻撃中止を求める署名もいくつか紹介します。

 7日、イスラエル政府はガザに「人道回廊」*1を設置して、イスラエル軍が攻撃を停止している間に限って、国連機関などがガザに人道支援物資を運び込むことを認めたそうだ。イスラエル軍が攻撃を停止するのは、今のところ昼の3時間だけで、それも1日おきなのだという。

 要するに、あなたがボブ・サップとK-1対決をするにあたっては、1ラウンドを2分38秒に短縮して(ただし1ラウンドごとにだけどね)、インターバルでセコンドが介抱してくれます。人道的措置です。ってことだよね。まあどうせ死んじゃうんだけどね。

イスラエル軍 出口なきガザ侵攻 (2009.01.07 東京新聞 22面)

 昨年末からのパレスチナガザ地区への戦火は停戦へ向けて動き始めた。ガザという出口のない牢獄で、解決という出口のない流血が繰り広げられている。数百人の犠牲者が出る一方、政治的にはイスラム急進派ハマスは傷ついていない。その傍ら、米国のオバマ次期政権には暗雲が漂う。国際社会には放置された「文明間対話」という宿題が重くのしかかる。(田原牧)

 他にも取り上げたい記事はいっぱいあるのだけど、昨日に続いて東京新聞で虫が大量発生しているので、晒しておくことにする。東京新聞はこの機会に産経新聞コードを移植した方が―少なくともパレスチナ報道に関しては―よっぽどユーザーフレンドリーだと思います。

 長い記事なので主なバグだけ取り上げる。

 ハマスの政治的指導者のひとりであるニザール・ラヤンは、7人の子どもを含む家族もろともイスラエル軍に殺された。政治家が暗殺されても政治は傷つかないというのは素敵なアイディアだ。このアイディアを採用すれば、ジャーナリストが殺されても言論の自由は不滅です。

  • 「国際社会には放置された『文明間対話』という宿題が重くのしかかる」

 記事を読んでいくと、「イスラムと非イスラムといった文明間対立」というフレーズが出てきてびっくり。文明(国際法を守ろうとする近代文明)と非文明(国際法をスルーする未開)との戦いだと思ってたよ。

 「三件先のビルが爆撃された」「子どもたちを落ち着かせようとできる限り話しかけている」「市民はどこに逃げていいのか、混乱している」
 ガザ・アズハル大学のサイード・アブドゥルワヒード教授が自家発電機で六日、送ってくれた電子メールの記述だ。
 ガザの医療関係者はこうメールに記した。「携帯電話が使えなくなり、救急車をうまく配置できない」「血液型検査のキットが不足し、イチかバチかで輸血している」
 イスラム礼拝所に併設された診療所も爆撃された。ハマスの活動家が寄れば"テロ施設"とみなされるからだ。

 イスラエル軍にとっては救急車も攻撃対象だ。「ハマスの活動家が寄れば"テロ施設"とみなされる」のではなく、無差別攻撃を正当化するためにハマスの存在を言い訳にしているだけなのである。


 戦火は六日、イスラエル後見役の米国がエジプト調停案を支持し、沈静化へ向かい始めた。焦点はハマスの武器密輸路とされるガザ地区とエジプトとの国境(十五キロ)を現状のエジプト単独からイスラエルとの共同管理に移せるか否かにある。

 って、焦点ボケボケすぎじゃね?夫のDVが続いている家庭に介入するときに、「焦点は妻の反撃道具になりうる食器類を隣家の田中さんとの共同管理に移せるか否かにある」って言われてもねえ。だって、夫はナックルダスターとか金属バットとかブッチャーナイフとかクラスター爆弾とか白リン弾とか普通に使ってるんだよ?

 今回の空爆イスラエルハマスの停戦が先月十九日に切れた後、ハマスがロケット弾を連射したため、報復として始まった。イスラエルのガザへの包囲制裁の緩和という停戦合意は履行されておらず、それがイスラム圏を核とするハマス支持の根拠になっている。

 繰り返しになるけど。
 P-navi info: 「ガザ全面攻撃は6ヶ月前から準備されていた」
 http://0000000000.net/p-navi/info/news/200901030344.htm

 軍事的には圧倒されつつも、ハマスはほとんど何も失わず、逆にパレスチナイスラム圏で求心力と同情を高め、政治的には優位に立っている。

 ハマスが失ったものはたくさんある。ニザール・ラヤンにとっては、それは9人の家族と自分自身の生命だった。ハマスには、イスラエル軍によって突然拉致されたり殺害されたりしない自由もないし、給料さえも支払われない。そして何よりたった12日間で700人以上もの同胞を失った。

 元来、ハマスを強くしたのはイスラエル自身だった。一九九〇年代、ハマスオスロ(和平)合意に反対。その和平はネタニヤフ、一人おいてシャロンイスラエル右派政権に潰され、ハマスは正当性を高めた。

 「和平」はニュースピーク。オスロ合意というのは、イスラエルの入植地建設を承認し、ファタハに金権力を独占させて「占領軍への協力者」(エドワード・サイード)にするためのもので、実態は「一片のチーズのように、穴だらけでほとんど中身のないもの」(イツハク・ラビン)だった。

 〇五年には、シャロン政権が一方的にガザを撤退。パレスチナで和平派のアッバス政権は立場を失い、ハマスは「抵抗の結果」と自画自賛し、これが〇六年一月の総選挙勝利へとつながった。

 その後の集団懲罰といえる包囲制裁も、ハマスに対する住民への*2不満を醸成するという狙いとは逆に草の根の福祉網でハマスの勢力を拡大させた。同政権の行政上の未熟さにも「制裁のため」との口実を与えた。

 「血液型検査のキットが不足し、イチかバチかで輸血している」ガザの医療関係者は、自分たちの医療技術のなさをイスラエルのせいにできてラッキーってことだね?

 一方、イスラエル側には展望がない。今回の空爆と地上戦でハマス幹部をどれだけ殺害しても、後継者は尽きない。
 ハマスを完全に抑えるにはガザの再占領しかない。だが、そうなれば和平の建前も吹き飛んでしまう。仮にアッバス自治政府議長派(ファタハ)に管理を委任しても、それはファタハに「イスラエルの傀儡」のレッテルを与え、その求心力をより弱めかねない。

 「ハマスを完全に抑える」権利がイスラエルにあるかどうかは別にしても、それが「ハマスの攻撃を抑える」ことだとすれば、イスラエル政府は1967年の境界線まで撤退して、ハマスと交渉すればいいだけだ。「彼女を完全に抑えるには自宅に押し入るしかない」んじゃなくて、まずはストーカー行為をやめて家に帰れよってこと。

 はー。これでやっと前半が終了。しかし今回最大のセキュリティホールは後半なんだな。ということで明日に続く。 

*1:「働けば自由になる」門を彷彿とさせる命名

*2:原文ママ