佐藤優化する週刊金曜日(2)

 今週号(4/24号)の週刊金曜日を立ち読みしていたところ、佐藤優ファシズムの「魅力」とやらを饒舌に語っていた。内容的には、『第三次世界大戦 右巻 世界恐慌でこうなる!』(田原総一朗との対談集)のまえがきで佐藤が披露していた自説とほぼ同じものと思われるが、ついに『金曜日』もここまで来たか・・・と思うと、むしろ感慨深くさえある。

 といっても、今さらナイーブに驚いてみたりする気はない。モスラの幼虫は、成長すれば自然にモスラの成虫になるのであって、ある日突然人間になったりはしないのである。そして、『金曜日』がどうやら人間ではなくモスラであるらしいことについては、ここ数年いたるところにフラグが立ちまくっていた。まるでモスラのように糸を吐き、あかたもモスラのようにビームを発するなら、それはやはりモスラなのであろう、というふうに。

 いや、モスラのことはどうでもよい。重要なのは、以前、金光翔さんが指摘した、ファシズムに関する佐藤の左右の媒体での二重基準が、「左」(笑)*1の自壊によって見事に解消されてしまったことだろう。以下のエントリーが書かれたのが今年の2月1日であることを考えると、たった3カ月も経たないうちに「左」が佐藤に(自ら進んで)丸呑みされている。

 私にも話させて:「佐藤優(現象)とソフト・ファシズム
 http://watashinim.exblog.jp/9279276/

 もっとも、これさえも実は「左」に甘すぎる見方であって、かりに佐藤が3カ月前(あるいはそれ以前)の時点で、ファシズムの「魅力」を『金曜日』で明け透けに語ってみせたとしても、それに対する「左」からの抵抗は取るに足らないものだっただろうと思う。全身保身パックに包まれた佐藤は、万が一にも読者に警戒心を抱かれないように、『金曜日』の対北朝鮮報道や右派との共同集会の行方を温かく見守った*2(つまり保険をかけた)上で、注意深く発言のタイミングを図っていたに違いない。そして、『金曜日』が、ソフト・ファシズムに親和的であるというより、すでにソフト・ファシズムの要そのものになったことを、佐藤は確信したのだろう*3

 というのが、今回の本題である。佐藤優現象>は、もはや佐藤優自身が不要であるほど、同時多発的に進行している。佐藤は、存在そのものが「人道に対する罪」を構成するほど排外主義的膨張を続けているが、『金曜日』もまた(『金曜日』誌上における)佐藤に輪をかけて排外主義的な言説を垂れ流しつつある。

佐藤優の飛耳長目(38) 「日本政府の連絡事務所を一日も早く平壌に開設せよ」(『週刊金曜日』 2009年4月17日号)

 というわけで、前回の続き。というか蛇足。

 『金曜日』が「六カ国協議での孤立を帝国主義で乗り越えよう!という佐藤優の主張まであと一歩」であると前回指摘したことに対しては、何もそこまで叩かなくても・・・と思う人もいるかもしれない*4。けれども、『金曜日』は、北朝鮮が平和目的の人工衛星であるとして国際的な手続きに則って打ち上げた物体を、何の留保もなくミサイルであると断定する「識者」の言説を撒き散らしているのである。日本がすでに六カ国協議で孤立しているであろうことについては以前に述べたが、こうした『金曜日』の対北朝鮮報道がパフォーマティブ帝国主義的であることは、もはや否定できないように思う。

 四月五日、北朝鮮朝鮮民主主義人民共和国)が、弾道ミサイルを発射した。北朝鮮は、本件を平和目的の人工衛星の発射であるとしているが、これまでに北朝鮮以外の諸国で明らかになった情報はいずれも人工衛星が軌道に乗ったことを否定するものばかりで、また北朝鮮が一貫して弾道ミサイルの能力向上のために腐心していることから、筆者は本件を弾道ミサイルの発射であると認識している。

 ここで極めて興味深いことは、4/3号から4/17号までの『金曜日』において、北朝鮮の打ち上げ物体を「ミサイル」であるとした上で、その「根拠」を説明しているのが、佐藤優ただ一人であるという事実だろう。言い換えれば、4/10号の青木理(「北朝鮮 "人工衛星"打ち上げ 戦争ごっこに巻き込まれるな」)も、4/17号の石黒壽夫(投書)や、今村孝之(論争)、そして何より編集部(山口舞子)も、北朝鮮の打ち上げ物体を「ミサイル」と断定しておきながら、その「根拠」を何ら示そうとはしていない。

 これはどちらがよりマシかという話ではない。比喩的に言えば、「ショーガイシャには生きている価値がない」と、何の留保もなしに断定するのが『金曜日』編集部の立場だとすれば、「ショーガイシャには生きている価値がない。なぜなら・・・」と、「根拠」を挙げて説明しようとするのが佐藤の立場であると言える。どちらも終わっているとしか言いようがないが、両者が共依存の関係にあることだけは確かである。

 ところで、上記の比喩は、日本の北朝鮮バッシングを語る上で、実はそれほど的外れなものでもないと思う。以前のエントリーのコメント欄にはこんな書き込みがあった。

gen
なんで、そこまでして北朝鮮を援護する必要があるの?

北朝鮮には、宇宙開発をする理由があるの?
明確な理由を知らないのに、開発するのは許されると言っているとしたらお笑い種だけどね。

m_debugger
素朴な疑問をありがとうございます。ところで、私も素朴に疑問なのですが、あなたはご自分の書き込みが質問の皮をかぶった差別だということを自覚していないのでしょうか?

具体的に書きます。あなたの「宇宙開発をする理由があるの?」という疑問が、来月人工衛星を打ち上げる予定の韓国に対して向けられないのはなぜですか?これまで人工衛星を打ち上げてきた、米国やロシア、フランス、中国、英国、インド、イスラエル、イランに対して、そして何より日本に対して向けられないのはなぜですか?

あなたの質問は、「ショーガイシャには、生きている意味があるの?明確な意味を説明できないのに、生きている価値があると言っているとしたらお笑い種だけどね」というロジックと、たいして変わらないように思うのですが。

このエントリーは、まさにあなたのような意識のあり方を問うています。つまり、北朝鮮を「援護」しているのではなく、北朝鮮バッシングを支える日本人の差別意識ダブルスタンダードを批判しているのです。

 「北朝鮮には宇宙開発をする明確な理由はない」という言説がパフォーマティブ帝国主義的なのは、第一に、宇宙開発をする「明確な理由」とやらを説明する義務が北朝鮮に一方的に課せられていること、第二に、たとえ北朝鮮が「説明責任」を果たそうとしてもその権利は何ら保障されていないこと、第三に、北朝鮮を差別・抑圧・支配している「われわれ」自身については決して語られないことなどによると思う。北朝鮮にとって、語る立場は、強制されていると同時にあらかじめ剥奪されているのである。

 北朝鮮が打ち上げた物体はミサイルである(なぜなら「われわれ」がそれをミサイルと呼ぶからである)」というトートロジーは、今や『金曜日』を始めとする「リベラル・左派論壇」にも蔓延していると思われるが、そうしたトートロジーを可能にするものは、帝国主義以外の何者でもない。

 あー、そういえば佐藤優の記事をデバッグしてたんだっけ?すみません。次回に続く・・・かも。

*1:もはや何と呼ぶべきかわからないが。

*2:もちろん佐藤自身がそれらに深く関与しているわけだが、佐藤は決して『金曜日』を一方的に誘導しているわけではない。

*3:もっとも、佐藤優でなくても確信するだろうが。

*4:いないか?