なぜ北朝鮮の「打ち上げ」に関する議長声明(全文)が日本で報道されないのか

 北朝鮮人工衛星打ち上げに関する国連安保理議長声明の全文を、メディアが一向に伝えようとしないのは、相応の理由があるからだろうと思っていた。が、思うだけで、具体的には何もできずにいたところ、4月16日のコラムで、浅井基文さんが、13日付の議長声明を(中国語から)全訳し、あまりにも的確すぎる指摘をしてくださっていた。

 21世紀の日本と国際社会:「朝鮮の「打ち上げ」に関する国連安保理議長声明」
 http://www.ne.jp/asahi/nd4m-asi/jiwen/thoughts/2009/282.html

 浅井さんのエントリーは、本当に必見なので、まだ読んでいない方は、ぜひチェックをお願いします。以下に要点をまとめてみます。

  1. 宇宙条約の作成に関わった国連が、安保理の議長声明において、宇宙の平和利用に関する朝鮮民主主義人民共和国(以下「朝鮮」)の国際法上の権利を黙殺していることは、許されることではない。
  2. 宇宙条約がすべての国家に対して宇宙の平和利用の権利を認めているにもかかわらず、安保理決議が朝鮮の権利(のみ)を奪いあげる権限を有しているとする議長声明は、明白なダブルスタンダードを犯している。
  3. 朝鮮が核兵器開発の再開と6者協議からの離脱を表明したことは、こうした理不尽な議長声明の内容からすれば、当然の対応である。
  4. 議長声明は、日本に共同声明*1の「全面履行」の努力を強める責任(朝鮮に対する20万トンの重油提供)を要求しているが、日本のメディアはこれを黙殺している。
  5. 4の要求は、朝鮮に対して強硬姿勢一本槍で、朝鮮半島の非核化を妨害している日本政府に対する、中国とアメリカからの牽制である可能性がある。

朝鮮外務省声明が鋭く指摘しているように、議長声明は、明白な二重基準を犯しているということです。「衛星打ち上げであれ、長距離ミサイル発射であれ、だれが行うかによって国連安保理の行動基準が変わるというところに問題の重大さがある。日本は自分たちの手先であるので衛星を打ち上げても問題がなく、われわれは自分たちと制度が異なり、自分たちの言うことを従順に聞かないので衛星を打ち上げてはならないというのが米国の論理である。」とする朝鮮外務省の指摘は正鵠を射ています。

 日本にとってもっとも重要なことは、「中国、DPRK、日本、韓国、ロシア連邦及びアメリカにより発出された2005年9月19日の共同声明及びその後のコンセンサスが得られた文書を完全に実施するために努力を強めることをすべての参加国に主張する」とした議長声明の文章です。日本政府はこれまで、拉致問題について前進がない限り、朝鮮に対する20万トンの重油提供の約束を履行しないことについては、朝鮮以外の他の6者協議当事国の理解が得られている、と強弁することによって、8.19共同声明(及びその後のコンセンサス合意)上の義務の履行を無視してきています。しかし、今回の議長声明は、日本政府が言い訳をいう根拠を与えない明快な形で、日本を含む参加国による「文書の完全実施」を求めているわけですから、6者協議再開の暁には、日本に対する国際的批判は強まることを覚悟しなければならないはずです。うがった見方をすれば、朝鮮に対して強硬姿勢一本槍の日本政府に対して、中国とアメリカが今後の朝鮮半島非核化を促進する上での対日アプローチのための布石として、あうんの呼吸で上記の一文を忍び込ませた可能性すら排除できないでしょう。

 21世紀の日本と国際社会:「朝鮮の「打ち上げ」に関する国連安保理議長声明」
 http://www.ne.jp/asahi/nd4m-asi/jiwen/thoughts/2009/282.html

追記

 上記エントリーでも指摘されているように、「拉致問題一本槍の日本外交が国際的に孤立を余儀なくされる時期が訪れるのは、それほど遠い将来のことではない」と思う。というか、これだけ異常な北朝鮮バッシングを続けておきながら、自分たちが孤立する(している)可能性に思い至らない日本社会*2は、本当にどうかしている。拉致被害者巣食う会のメンタリティが、ここまで(リベラル・左派を含む)一般に浸透してきたと言うべきだろうか。それにしても、13日付の国連安保理議長声明と比べて、14日付の北朝鮮外務省の声明は、あまりにもまともすぎる。

 国連安保理に決議案を提出した日本の狙いは何なのだろうか?

 米朝関係改善を妨害すること。それと北朝鮮を挑発することでこの地域の緊張を高め、自らの安全保障の危機を作り出し、プロパガンダによって世論を誘導して戦争の放棄を謳った憲法のくびきから逃れ軍事力をもって覇権国家の復活を実現することだ。

 元々6ヶ国協議も北朝鮮を追い込むためだけに参加していて、はなから朝鮮民主主義人民共和国の存在を認めたくない日本政府と世論は、これまでも度々6ヶ国協議を妨害する行動をとってきた。頭の中は北朝鮮を追い詰めることだけしかない。
 ”拉致問題”も”核問題”も、米国の安全保障に関わる”ICBM”も北朝鮮を潰すためのカードとして扱われてきた。

 アンチナショナリズム宣言:「日本による6カ国協議の破壊は成功」
 http://electric-heel.cocolog-nifty.com/blog/2009/04/6-c056.html

 下記のエントリーも必見です。

 日朝国交「正常化」と植民地支配責任:「橋下発言と世界「提言」、そして在日朝鮮人の「責任」」
 http://kscykscy.exblog.jp/10742774/  

追記2

id:F1977さんへ

 こんにちは。F1977さんのブログは(まだ読み始めて日が浅いのですが)、いつも更新を楽しみにしています。というわけで、以下のエントリー拝見しました。

 パラム、ドル、ヨジャ〜済州島に多いものみっつ〜:「おねがいします。」
 http://d.hatena.ne.jp/F1977/20090417/1239977663

 日本のサヨクの殆どはイスラエルのリベラルのようなものなので、在日がマイノリティとして存在する権利(実際には何の権利もありませんが)を認める程度には「寛容」であると思います。と、昔は思っていましたが、いろいろあって確信がなくなる一方です。そもそも在日には選挙権さえないので、その点でもイスラエルの方がはるかに「民主主義」的ですしね。

 今週号の『週刊金曜日』に、「北朝鮮問題」の解決法は「愛国心を発揮し、国民の尊厳を死守すること」という投書(サヨクヲワタ)が載っていたので、まずは金曜日にお尋ねの件、聞いてみますね・・・。日本のサヨクは、F1977さんの質問にまともに答えられない現状を認めるところから再出発するしかない、と思います。

*1:第4回六者会合に関する共同声明。http://www.mofa.go.jp/MOFAJ/area/n_korea/6kaigo/ks_050919.html

*2:日本では「社会」がすでに崩壊して「世間」が席捲しているという説もある。森巣博とか。