「出口のない流血」という欺瞞(2)

 YouTubeイスラエル国防省の専用チャンネルがあると聞いて、軽く釣られに行ってきました。WorldwideのEnglish(US)版で"gaza"を検索すると、閲覧件数でトップに出てくるのが、"Mortar Bombs Shot from UN School in Gaza 29 Oct. 2007"という、『少林少女』ばりに「頭がおかしい奴らの映像」。

 イスラエル軍による国連学校への攻撃を正当化するためだけにYouTubeにアップされたらしいこの映像は、一週間で40万回近くも再生されている。*1。ところが、「2007年10月29日、ガザの国連学校から発射された(パレスチナ・テロリストの)迫撃砲」というこの映像、どう見てもイラクの大量破壊兵器「発見」か!?の粗悪なパロディなんだな。衛星画像がぼやけてるとかそれ以前に、

  1. 日付が違う。イスラエル軍が国連学校を攻撃したのは今年の1月6日なのに、パレスチナ側からの攻撃が「発見」されたのは2007年10月29日になっている。
  2. 場所も違う。イスラエル軍が攻撃をしたのは、ガザ北部のジャバリヤ難民キャンプとガザ市のシャティ難民キャンプ、南部のハンユニスにある三校なのに、この映像に映っているのはガザ北部のベイト・ハヌーン小学校。*2

 
 そして当然コメント欄は閉鎖されてたり。・・・痛いニュースかよ?

 それでは、一週間放置していた東京新聞デバッグを再開します。

イスラエル軍 出口なきガザ侵攻 (2009.01.07 東京新聞 23面)

 パレスチナをめぐる戦火は絶えなかった。しかし、これほど「出口のない戦争」は例がない。 

 と思ったけど、今日の害虫駆除は、これだけで終わりかも。まずはこの種のバグを「TINAバグ」と定義しておく。

  • TINAバグ(TINAbugs)

 TINAバグはIF関数の条件分岐を無効化するバグである。TINAは"There Is No Alternative"(選択の余地はない)の略。よくある例としては、「郵政民営化なくして構造改革なし」「われわれの側か、テロリストの側か」など。一見すると選択の自由が与えられているように見える場合でも、出力結果はあらかじめ決定されている。

 『スーパーサイズ・ミー』という映画がある。30日間マクドナルドのファーストフードだけを食べ続けたら人間はどうなってしまうのか、というドキュメンタリで、監督脚本製作兼モルモットをこなしたモーガン・スパーロックは、30日目になるまでに体重が14キロ、体脂肪率が11パーセントも増えてしまう。この映画の(というかマクドナルドの)恐ろしいところは、実験を続けているうちに、「モーガンはマックに行きたくて行きたくてたまらなくなり、店に駆け込んでマックにかぶりつきシェイクをすするとスーッと苛立ちが消えて幸福になる」ことだ。脂肪や砂糖に習慣性があって、モーガンは「マック・ジャンキー」になってしまったのである。

 マクドナルドで食べれば食べるほど、ますますマクドナルドで食べたくなってくる。まさに戦慄のメタボ・スパイラル?というわけだけど、これを「出口のないメタボの連鎖」であるとか、「マクドナルドが滅びるかスパーロックが滅びない限り、この問題は解決しない」とか、本気で思う人はいないよね?スパーロックが実験をやめさえすれば、当面の問題は解決するんだから、出口は明快で道順だって簡単だ。実際に、『スーパーサイズ・ミー』では、ガールフレンドや家族、友人、医者が、実験の続行に反対している。

 だけど、スパーロックが映画監督ではなくて、マクドナルドでしか外食ができないワーキングプアだったとしたら、そして、あなたがスパーロックの親友だったとしたら、どうだろう?あなたはスパーロックの「マック・アタック」をとめようとするだろうか。それとも、しないだろうか。ちなみに、あなたの横では三人の医者が、「こんなバカげた実験を続ければお前は死ぬ」と、スパーロックにぶちキレてるとして。

 あなたはスパーロックをとめますか?とめませんか?

 まあ、普通はとめるよね。貧困が絡む分だけ道のりは遠くなったかもしれないけど、出口がないわけじゃないからね。

 じゃあ次。もしも、マクドナルド以外の食べ物がこの世界になかったとしたら?あなたはそれでも親友のマック・アタックをとめようとするだろうか。

 あなたはスパーロックをとめますか?とめませんか?

 もしも、あなたがスパーロックと共に生きようとするなら、正解はただ一つ、「革命を起こす」ことしかない。というか、そこにしか出口はない。そして、繰り返すけれど、この場合も、出口は遠いだけで存在しないわけじゃない。もしも、あなたが出口を見ようとさえするなら。

 パレスチナをめぐる戦火は絶えなかった。しかし、これほど「出口のない戦争」は例がない。 

 出口は存在しないのではなく、見ようとしないから見えない―あるいは見えないふりをしている―だけである。「出口のない戦争」という言葉は、そこに生きる人々―ここにはイスラエル人も含まれる―と共に生きる意志の欠如を示しているにすぎない。出口がないから何もできないのではなく、もともと何もする気がないから、出口など「見えない」方が都合がよいのである。

 東京新聞の田原記者は、正直に言えばいい。「唯一の出口はイスラエル軍が占領をやめることだけど、自分は何もする気はないですよ」と。せめて「出口のない流血」という欺瞞だけはやめてくれ。

 次回に続く。・・・かも。

追記

 今日は産経新聞の記事がものすごくいい。ヨルダン川西岸ナブルスから「ガザの叫びを聞け」という報道をしてくれたのは、国際部の黒沢潤記者。デバッグ屋もさっそくファンレターを書きました。「良い報道をしているメディアには、それを称えるメッセージを送りましょう」ってことで。

 http://sankei.jp/inquiry.html#Articles

*1:目安としては、モサドがTorparkでIPを偽装してF5キーを20万回叩いたとすると、閲覧者は20万人になる。

*2:ベイト・ハヌーンへのイスラエル軍の攻撃については、http://0000000000.net/p-navi/info/news/200611042313.htm など。もちろん、時間と場所が「適切」だったとしても、イスラエル軍の攻撃は正当化されないです。