佐藤優化する週刊金曜日(1)

【4/29 追記】mujigeさんから重要な指摘をいただいたので、コメント欄から引用します。まるで拉致問題以前には北朝鮮バッシングがなかったかのように読めるヌルい文章を書いたことを反省します・・・。「北朝鮮に対するバッシングは、少なくとも2002年9月17日以来、ずっと続いています」という部分を「北朝鮮に対するバッシングは、1998年のロケット発射(光明星1号打ち上げ)以前から、ずっと続いています」と改めました。今後もヌルい点があればバリバリご批判ください。

ブコメにも書きましたが、「北朝鮮に対するバッシングは、少なくとも2002年9月17日以来、ずっと続いています。」というのは、やや異議があります。
実際は1998年のロケット発射(光明星1号打ち上げ)時から、朝鮮は十分に叩かれてまくっていました。
参照:http://d.hatena.ne.jp/ytoz/20090309
つまり、拉致問題は「北朝鮮バッシング」とは直接関係ない=拉致はバッシングの原因ではなくネタにすぎない、ということは、確認しておいたほうがいいかと思います。
まあ、98年の「テポドン」にしても、バッシングのネタにすぎないわけですが。

 ここ2週間(4/3号と4/10号)の週刊金曜日北朝鮮報道は、実にひどかった。

 北朝鮮バッシングをスルーする週刊金曜日の「広島化」
 http://d.hatena.ne.jp/m_debugger/20090403/1238741647

 北朝鮮バッシングスルーをスルーする週刊金曜日
 http://d.hatena.ne.jp/m_debugger/20090416/1239893229

 けれど、こうした評価も、先週号(4/17号)を読んで、静止軌道*1に吹き飛んでしまった。週刊金曜日は「広島化」を超越して、すでに「佐藤優化」していた。上記エントリーでの金曜日批判は、一昔前の「午後の紅茶」のように甘かったのかもしれない。

 そんなわけで出直してきました。先週号での北朝鮮関連記事を、順番に見ていきましょう。

  • 山口正紀、「「北ミサイル発射」報道 軍拡を煽った"迎撃猿芝居"中継」
  • 山口舞子、「検証「北朝鮮ミサイル迎撃」報道 政治ショーに悪ノリした「有事報道」が見逃したもの」
  • 佐藤優、「日本政府の連絡事務所を一日も早く平壌に開設せよ」
  • 矢崎泰久、「発言2009」
  • 山口泉、「厚顔な二重基準と根深い国家主義の遺伝子」
  • 石黒壽夫、「対北朝鮮より対米に配慮を」(投書)
  • 今村孝之、「北朝鮮問題の簡単すぎる解決方法」(論争)

山口正紀、「「北ミサイル発射」報道 軍拡を煽った"迎撃猿芝居"中継」

 一番目の山口正紀による記事は、この間の北朝鮮バッシングを冷静に検証したものであり、4/3号以降の週刊金曜日に掲載された、最初のまともな北朝鮮関連報道であると思う。北朝鮮の打ち上げ物体をカッコつきで「ロケット」と呼んでいるのはいただけない(カッコは不要だろう)が、この記事が、アジアの眼差しから日本を捉えようとした第一報であることは、(山口正紀の名誉のためではなく、週刊金曜日の不名誉のためにこそ)いくら強調してもよいだろう。

 東北地方の遥か上空を通過する「飛翔体」に、遠く離れた横浜に住む人が不安を覚え、八割近い人が「制裁強化」を求める。そんな異様な空気に乗り、自民党坂本剛二・組織本部長は七日、「日本も核を持つという脅しくらいかけないと」と党会合で発言した。核爆弾に使えるプルトニウム、ミサイルに転用できる衛星発射技術を持つ日本。その政権党幹部の核保有論は、アジアの人々に「脅し」を超えた現実的恐怖となるだろう。

 ちなみに、北朝鮮バッシングを改憲と絡めて語ったのも、週刊金曜日誌上では山口正紀が初めてである。繰り返すが、このことは山口の慧眼を示すものではなく、週刊金曜日の確信犯的スルー力を証明するものにほかならない。

「破壊措置命令」の真の標的は、軍拡の障壁=憲法九条だ。その援護射撃にフル動員されたのが、「脅威」という"虚報の銃弾"だった。

 ちなみに、「「北ミサイル発射」報道」という差別的な煽りは、週刊金曜日の編集部がつけたものと判断して120%間違いないだろう。山口正紀は、朝鮮民主主義人民共和国を正式名称で呼んでいるので、わざわざ「北」という露骨な差別用語を使うとは考えにくいからである。やはり週刊金曜日は確信犯だ。

山口舞子、「検証「北朝鮮ミサイル迎撃」報道 政治ショーに悪ノリした「有事報道」が見逃したもの」

 二番目の記事は、週刊金曜日編集部によるものである。タイトルの左横には、こんな説明文が並んでいる。

朝鮮民主主義人民共和国北朝鮮)の「ミサイル発射」をめぐる感情的報道は止み、話題は一気に国連安保理へとシフトした。そして終息の気配だ。
「お祭り騒ぎ」と「軍事機密の壁」という矛盾。
一過性の「政治ショー」のなかでメディアが見逃したことは何だったのか。

 えーと。あまりにも凡庸でつまらない突込みをさせていただくけど、北朝鮮に対するバッシングは、少なくとも2002年9月17日以来、ずっと続いています。【4/29 訂正】1998年のロケット発射(光明星1号打ち上げ)以前から、ずっと続いています。話題が「一気に国連安保理へとシフトした」のは、日本が北朝鮮バッシングの輪を国連にまで広げようとしたからです。「終息の気配」などと言っている週刊金曜日にこそ、確かな「終息の気配」が伺えます。それにしても、「「お祭り騒ぎ」と「軍事機密の壁」という矛盾」って・・・何事?

 ところで、編集部によるこの記事で見逃してはならない(というか見逃しようがない)のは、北朝鮮の打ち上げ物体がミサイルであるという前提で記事が書かれていることである。

 正確に言えば、編集部は北朝鮮の打ち上げ物体がミサイルであると直接断定しているわけではないが、そうした前提に立つジャーナリストや評論家の見解を垂れ流している。つまり、週刊金曜日は、自らの手を汚すことなく(批判の矛先をあらかじめアウトソーシングしておきながら)、かつ自らを「検証」の主体(客体ではなく)という高みに置きつつ、間接的な北朝鮮バッシングをしているのである。実際、この記事の大部分(8割以上)が、北朝鮮の打ち上げ物体をミサイルであると断定する既存の報道の紹介と、ジャーナリストや評論家の発言の引用にすぎず、編集部自身の見解にあたるものは、上記の説明文くらいしか見当たらない。

 これは、言ってみれば、「(私は別にあなたのことが嫌いってわけじゃないんだけど)AちゃんとBちゃんとCちゃんとDちゃんと(ryは、あなたのことが嫌いなんだって」という、いじめのようなものだ。たとえ、「あなた」が自殺をしたとしても、「私」は悪くない。悪いのは、「AちゃんとBちゃんとCちゃんとDちゃんと(ry」なのである。うわー、最低だな。週刊金曜日

 ちなみに、記事の冒頭と締めくくりには、蟹瀬誠一の発言が引用されている。したがって、編集部が蟹瀬に自らを代弁をさせていると考えることは、それほど的外れではないだろう。で、蟹瀬の締めの発言がこれ。

北朝鮮の実像をまずは知り、その解決のための選択肢をもっと整理したほうがいい。たとえば単に後継者が二男になるか三男になるか、などということではなく、かりにリーダーシップが代わることによって日朝関係にどのような変化が予測されるのか、日本の最大関心事とされている拉致問題で何らかの進展が起きる可能性があるのか。あるいは、"結末のないお芝居"にしか見えない六カ国協議をこのまま五年以上続けて、それを報道し続ける意味はどれくらいあるのか、などといった視点。そしてミサイル問題では、誰が得をして誰が損をしたのか、という非常にわかりやすい構図を解決していくことが大事だと思う」(蟹瀬さん)

「"結末のないお芝居"にしか見えない六カ国協議」
「"結末のないお芝居"にしか見えない六カ国協議」
「"結末のないお芝居"にしか見えない六カ国協議」

 あー、これがデジャヴってやつね。六カ国協議での孤立を帝国主義で乗り越えよう!という佐藤優の主張まであと一歩だな。というか、週刊金曜日佐藤優は今や二人三脚だから、実は一歩もいらないのか?

まず日本外交は、根幹をはっきりさせるべきです。拉致問題は国家として絶対に見過ごすことのできない問題である。人権侵害であるとともに、国権に対する侵害だ。この問題をないがしろにすることは、日本の国家体制が内側から崩れることになる・・・そういうふうに、日本の外交当局者と国民と有識者がきちんと自覚して、そこからスタートすることが重要です。拉致問題の解決は、我が国家にとっつて原理原則であると、周辺国に主張していく。その結果、六者協議の異端児になったっていいんです。この問題については、旗をきっちり高く掲げる。今のタイミングでそれをやることが、非常に重要だと思うんです。*2

北朝鮮が条件を飲まないならば、歴史をよく思いだすことだ。帝国主義化した日本とロシアによる朝鮮半島への影響力を巡る対立が日清戦争日露戦争を引き起こした。もし、日本とロシアが本気になって、悪い目つきで北朝鮮をにらむようになったら、どういう結果になるかわかっているんだろうな」という内容のメッセージを金正日に送るのだ。*3

 次回は佐藤優デバッグします。

*1:高度約3万6000キロメートル

*2:青木直人西尾幹二佐藤優(監修)、『中国の黒いワナ』、宝島社、2007年

*3:佐藤優、「6カ国協議の真実とは」、「ラスプーチンと呼ばれた男 佐藤優の地球を斬る」、2007年3月15日