あえて言おう、カスである、と。(1)

 いやー、いったい何をどうすれば、他国の人工衛星打ち上げをめぐって、ここまで一方的なバッシングを続け、しかもそのことを恥じずにいられるんだ?「あえて言おう、カスである、と」(©ギレン・ザビ

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 昨日の北朝鮮人工衛星打ち上げについて、各紙とも社説を含めて総力体制でバッシングをしている。

 どれもこれもカスばかりなので、社説はスルーして、一般市民の声を紹介した朝日の記事(「「私はこう思う」各地で聞く」)を見てみよう。ところで、この記事の右側には「気をつけろと言われても■配備、割り切るしか■迎撃できたの?」という見出しがあり、左側には「冷静」という無駄にでかい*1二文字が太字で掲げられている。つねづね思っていることだが、朝日のデスクは頭がおかしいんじゃないのか?

「「私はこう思う」各地で聞く」(2009.04.06 朝日新聞 30面)

 北朝鮮のミサイルが東北地方の上空を横切った5日、秋田県岩手県など10都道府県の人々の声を聞いた。北朝鮮に対する怒りの声、日本政府に外交努力を促す意見などがあったほか、迎撃システム配備に関しては肯定、否定が入り交じった。

 「東北地方の上空」って、それはもう領空でさえないんだが。

 茨城県鉾田市の会社員谷田川勝善さん(61)は今回の北朝鮮の行動について「国際ルールを無視した身勝手な行動は許せない」、岩手県八幡平市の自営業瀬川美代子さん(61)は「住民は『気をつけろ』と言われても、何もできない。これで終わりとは思えない」と不安を口にした。茨城県つくば市の会社員山中良浩さん(41)は「防衛は、あくまで外交とセットであるという大前提を忘れてはならない」と日本政府の外交努力を求めた。

 北朝鮮が国際的な手続きにしたがって人工衛星を打ち上げようとしていたことは、以前のエントリーで述べた。「住民は『気をつけろ』と言われても、何もできない」のは、日本政府の対応を無批判に受け入れているからだろう。批判しようと思うなら、やることはいくらでもある。その意味で、後半の指摘は、とても的を射ていると思う。つまり、日本の北朝鮮バッシングは「これで終わりとは思えない」。

 今回は日本の領土、領海内に部品などが落下した場合に備え、東北と首都圏にPAC3(地対空誘導パトリオット3)が配備された。
 横浜市の主婦加藤和子さん(76)は「戦争ですべてをなくし、戦争を憎む気持ちは強い。それでも、配備して自分の国を守るのは当然」。岩手県宮古市の会社員伊藤俊さん(28)も「最低限の経費と割り切るしかない」と言った。
 千葉市の団体役員前田和記さん(44)は「技術的、確率的に未知数のものを巨額の費用を使って配備する必要を感じない」。宇都宮市の郵便局アルバイト鈴木陽子さん(62)は「税金をたくさんかけたのだろうが、4日の誤報も手伝って本当に迎撃できたのか信用できなかった」と話していた。

 最初のコメントについては、別のエントリーで、「何も見えてない(そもそも見る気もない)「平和」主義」だと書いた。簡単に言えば、日本は、朝鮮半島を植民地支配して収奪した富(例えば朝鮮人を強制連行して全国に建設したインフラなど)を戦後も相続し、アジアへの賠償を経済「援助」に摩り替えることで、先進国になったのである。「戦争ですべてをなくし」たという日本人の言葉は、それが心からのものであっても(あるからこそ)、日本が植民地支配・侵略した国の人々に受け入れられることはないと思う。

 次に、ミサイル防衛システムを「最低限の経費と割り切るしかない」というコメントに対しては、6兆円に達すると推定されている*2ミサイル防衛の費用について、それが「最低限」と言える根拠を合理的に説明してほしいと思う。「割り切るしかない」とか「痛みに耐える」とかいう「苦渋の選択」に関わる表現は、思考停止症候群に進んでかかる人たちが共有する典型的な寝言だろう。

 後の二つは、ミサイル防衛の性能に対する疑い*3を述べているが、ミサイル防衛そのものに対して有効な批判をしているわけではない。自分たちが被害を受けないなら戦争にも反対しないという、日米安保の枠内に収まった「冷静」(©朝日)な意見と言えるだろう。

 今回の問題をめぐるメディアの報道姿勢についても、「大げさすぎる」「あおりすぎてはいけない」という意見や、「何も知らされないと不安」と詳しい報道を求める声まで様々だった。

 いつものことだが、最後は無内容な両論併記で終わっている。朝日の記事は、水戸黄門や「火曜サスペンス劇場」的な予定調和にもとづいているので、思考停止症候群の人でも安心して読めるところがチャームポイントだ。あえて言おう、カスである、と。

 ちなみに、以下は駐日特派員のコメント。韓国と米国は日本と同じ立場だとかいう主張は、いくらなんでも神がかりすぎだろう。

 今回の発射に対する日本社会の反応をどう見るか。東京に駐在する外国人特派員2人に聞いた。

 韓国紙・東亜日報の徐永娥(ソ ヨンア)・東京支局長(43)
 発射予告の後、日本社会は全体的に神経をとがらせすぎていたように見えた。まるで戦争が迫っているかのように伝えたメディアもあった。
 北朝鮮の意図は国際社会の注目を集めることだから、残念ながら日本について言えば、成功してしまっている。
 韓国に比べて日本は全体的に軍事的脅威に対する免疫がないのではないかとも思う。

 ニューヨーク・タイムズマーティン・ファクラー東京支局長(42)
 ワシントンやソウルの冷静さに比べて、日本は騒ぎすぎた。北朝鮮は、米国がオバマ政権になりあまり注目されなくなったから、パフォーマンスをやっているだけ。
 拉致問題もあり敏感になるのは分かるし、政治家は総選挙前で国を守っているところを見せたかったのだろうが、北朝鮮に攻撃の意図がないことは分かっていたはず。バランスに欠け、パフォーマンスに負けたと言える。

 次回に続く。

*1:推定130pt

*2:ランド研究所の試算による

*3:たくさんある。例えば、2008年11月20日にハワイ・カウアイ島沖で行われた海自イージス艦「ちょうかい」によるSM3の迎撃実験は、標的が命中する数秒前に標的を見失って失敗したが、防衛省は「実験の目的は九九%達成できた」と発表し、SM3の迎撃システムの装備を認定した。何というか戦前の大本営発表そのままである。